こころに障がいを抱える方の、スムーズな社会復帰のために。 「こころの可視化」で、手厚く、きめ細かなサポートを目指す! ~ヘルスケアAIを活用したメンタルケア・実証実験の取り組み
「なんとなく憂うつ」「気持ちが落ち込む」「何もやる気が起きない」…といった気持ちになることは、多かれ少なかれ誰でも経験がある。しかしそんな状態に陥っても、多くの人は元々備えている「こころの回復力(レジリエンス・しなやかさ)」によって自らの力で立ち上がり、こころの健康を自分で取り戻すことができる。
ところがこころの回復力を失った場合、不安やストレスが蓄積・増大し、ある日ふいにコップの水があふれるように、「こころの病気」になってしまう。
こころの病気で通院・入院をしている人の数は、2002年には224万人だったが、2018年には420万人と増加傾向にある※。その後のコロナ禍によって人間関係の疎遠化、孤立化、また社会・経済情勢の悪化などが重なり、この状況に追い打ちをかけている。
※厚生労働省 令和4年(2022)地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書・参考資料
こころの病気になると、日常生活や人間関係に様々な支障が出るばかりでなく、仕事に行けなくなり、休職、離職をせざるを得ない場合もある。いったんこの状態になると、再就労への道は容易ではないのが実情だ。
そんな人たちの就労と社会復帰を支援するのが、一般社団法人あいち福祉振興会である。2022年7月から、アドダイスのヘルスケアAIにより、就労希望者のこころと身体を見守る実証実験を行っている。代表理事の中島様にお話を伺った。
お客様プロフィール
会社名 | 一般社団法人あいち福祉振興会 |
業種 | 障がい福祉サービス事業 |
所在地 | 名古屋市熱田区(本社) |
概要
導入前の課題
・就労希望者への支援が、スタッフの主観的対応になりがち。客観的根拠で行われにくい。 ・就労希望者と実際に会っている時(面談等)以外は、様子が見えない、わからない。24時間365日の様子がわかれば、より良い支援ができるのではないか? ・いまの支援は、担当者の主観的判断が中心。客観性も取り入れたいがどのようにしたらよいか? |
ResQ AIを選んだ理由
・名古屋市のフィールド活用型社会実証支援「Hatch Meets」で、アドダイスとの出会いがあった。 ・データと客観的根拠に基づき、「見えない」部分が可視化できる。 ・病気になってからではなく、なる「前」の状態(未病)をAIでとらえ、スコア提示してくれる。 |
導入効果
・仕事とのマッチング状況、周囲(雇用主等)との関係などが可視化され、客観的指標で判断が可能になる。 ・経験の浅いスタッフでも、手厚く、きめ細かな支援が可能になる。 ・自らの心身状態をデータで客観視できるので、本人の自覚も促し、自立への一助となる。 |
1.出会いは「Hatch Meets」のミートアップ
あいち福祉振興会では、主にこころに障がいを抱える方の就職相談、就職訓練、就職活動サポート、そして就職後のフォローまで、一貫した福祉サービスを提供している一般社団法人だ。名古屋市エリアは熱田区の本社および南区事業所、知多エリアは半田事業所、さらに西尾張エリア(あま市、海部郡)を海部郡蟹江町のあま事業所が担当し、2013年から活動を続けている。
あいち福祉振興会とアドダイスとの出会いは2022年2月、Hatch Meets(ハッチ・ミーツ)※の第6回ミートアップ。Hatch Meetsは、課題を解決したい名古屋市の企業・団体と、先進技術の実証フィールドを探すスタートアップ企業によるネットワーク・コミュニティで、定期的なミートアップを通じて様々なテーマの元にビジネス・マッチングが行われ、プロジェクトが実施されている。
※フィールド活用型支援事業「Hatch Meets」実証プロジェクト
「2022年2月のミートアップのテーマが『介護&福祉業界の困りごと』でした。当会もピッチの機会をいただき、『福祉事業所のICT課題』というテーマでお話しさせていただいたのですが、このとき提示した課題のひとつに『ご利用者様の体調変化が見えない』というのがありました」
「精神障がいを持つ方は、日々、こころも身体もとても不安定な状態で過ごしています。我々も、面談している時は様子がわかるのですが、24時間365日張り付いているわけにもいきませんので、日常の様子は見ることができません。これがわかればもっと的確な支援ができるし、この事業の利用率向上にもつながるでしょう。この課題を解決する手段が、ITの活用にあるのではないかと考え、ミートアップで提示させたいただいたのです」
ここで、アドダイスとのマッチングが浮上した。2022年春、アドダイスはヘルスケアAI(ResQ AI)の技術を携え、Hatch Meetsに参加していた。バイタルデータをAIでリスク解析し病気の兆候を捉え(予兆制御®)、客観的な指標(スコア)を示す取り組みの実証フィールドを求めてのことである。
中島様は、『ご利用者様の体調変化が見えない』という課題を、ヘルスケアAIで解決できるのではないか?と考えたという。
「就労支援というのは、どうしても担当者の主観的判断が中心になります。ベテラン職員の判断は頼もしいのですが、新人育成には時間がかかりますし、ノウハウの共有も難しい。ヘルスケアAIを導入することで、就労支援の判断に『客観性』をもたらすのではないかと考えました。
さらに、ストレス、メンタルの『見える化』にも取り組んでおられるということで、見えない「心」が見えるようになれば、より手厚い支援が実現するのでは?という期待も抱いたのです」
早速マッチングが成立し、6月29日の名古屋市報道発表※の後、7月1日から正式に実証実験がスタートした。
※名古屋市報道発表(2022.06.29)令和4年度「Hatch Meets」実証プロジェクト 障がいのある方の就労支援施設において 「未病AI」の実用化に向けた社会実証を実施します!
2.実証実験のしくみ
実証実験の運用は、次のとおりである。
あいち福祉振興会のご利用者様のうち、希望する方にアドダイスのウェアラブルIoTを装着してもらい、皮膚温、心拍数などのバイタルデータを常時測定。スマートフォン経由でクラウドのAIに送信する。
クラウドのデータはPCのブラウザを通して確認することができるので、あいち福祉振興会スタッフ、臨床心理士らとアドダイスが共同でバイタル変化・傾向を検証し、健康管理とストレス計測を行い、支援につなげていく。
7月1日から、合計で10名がウェアラブルIoTの装着、測定を開始。ご利用者様だけでなく、中島様を含む同会の職員も参加し、実証実験がスタートした。
3.実証実験で見えてきたこと
実証実験を通して、どのようなことが見えてきたか、またどんな感想を抱かれたのか。
「クラウドにデータとして集約される、各利用者様の状況を見てきました。やはり仕事の内容であったり、そこで接する人(上司など)によって変動があることがわかりました。
例えば 仕事A、仕事Bそれぞれに就いたとき、Aで就労しているときの方がストレススコアが低いならAの方が適職ではないか、あるいは対人関係のストレスなども分かれば、よりその人の希望に沿った就労環境の提供が可能になるでしょう」
「また、生活リズムの把握も重要です。ひきこもりであったり、心身の不調により服薬を続けている方も多くいらっしゃいます 。服薬によって睡眠に影響が出ることもあるため、どんな生活リズムが適しているのかを、データをもとにアドバイスさせていただくこともできると思います」
「他にも、翌日以降の仕事のパフォーマンスが下がらないように事前に面談を行ったり、就職時に生活リズムを整えたり、仕事とのマッチングや上司との関係・相性などに配慮することで、より良い就労支援につながると考えています」
「自分の生活リズムがわからない、崩れていて悩んでいる、精神障害をお持ちの方、そしてそのご家族に自分の生活リズムを取り戻し、就労に役立てていけることを願っています」
4.Hatch Technology NAGOYAの中での活動
7月のキックオフ以降、Hatch Meetsでは、様々な活動が行われてきた。
実験開始直後の7月5日、さらに8月19日に中間報告会、また11月には名古屋市内のランドマーク「オアシス21」を会場に、2日間にわたるオープンイベント「Hatch Technology Fes.2022」に参加し、2日間で150名の来場者、また名古屋市長、副市長にご紹介の機会も得ることができた。
詳しいレポートは、以下の記事をご参照ください。
・2022.07.06 <開催報告>「未病AI」実用化に向けた社会実証についてご紹介!7/5火・名古屋ハッチミーツ第3回ミートアップ
・2022.08.22 <開催報告>心身状態の「観える化」でより良い就労支援を目指して!「未病AI」社会実証、中間報告 8/19金・名古屋ハッチミーツ第4回ミートアップ
・2022.11.18 名古屋市「Hatch Technology Fes.2022」出展レポート ~ヘルスケアAI「ResQ AI」を体験してみよう!
5.今後への期待
「こころの病気といえば、うつ病をイメージされる方が多いのですが、他にも統合失調症やパニック障害、躁うつ病、強迫性障害、薬物依存症、発達障害など多様であり、症状の出方も様々です。特別な人だけがかかる病気ではなく、誰でもかかる可能性があります。
バイタルからこころを見える化しようとするアドダイスのAIには、引き続き期待を抱いています。我々のような立場の人間が客観性を持って対応し、社会復帰をお手伝いしていくことで、こころの病気を正しく理解してもらえるきっかけにもなるでしょう。こころの病気を抱える方々が、地域で共に安心して暮らせる社会を築いていくことがとても大切だと考えています」
実証実験は、いったん2023年3月末で区切りを迎えた。中島様は、今後もヘルスケアAIの精度向上に、期待をかけていきたいとのことであった。
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