【前編】バイオテック・スタートアップが生き残るための10の質問 ~ライフサイエンス・ベンチャー・キャンバスの導入

ライフサイエンス・スタートアップに贈る新たな”羅針盤”
2022年の秋から冬にかけて、私は米国UC Berkeleyのスタートアップ支援アクセラレータ「Berkeley SkyDeck(バークレー・スカイデッキ)」にて、アントレプレナーシップの最前線に身を置く貴重な経験をしました。
・ただいまSkyDeck参加中!Berkeley, California滞在レポート
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UC Berkeleyは、シリコンバレーの基礎を作り、今なおテクノロジーで世界を変革し続けています。SkyDeckは同大学が運営する全米最高峰のアクセラレータであり、アドダイスは2022年度の「Deep Tech コース」に選出されBatch 15に参加することとなりました。私は1カ月半渡米し、スタートアップとして最高の環境で学ぶ機会を得ました。
カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)は、シリコンバレーの基礎を作り、今なおテクノロジーで世界を変革し続けています。Berkeley SkyDeckは、UC Berkeleyが運営する全米最高峰のアクセラレータであり、アドダイスは2022年度の「Deep Tech コース」に選出されBatch 15に参加することになりました。私は一カ月半渡米し、スタートアップとしては最高の環境で学ぶ機会を得ました。
その中で出会った人や学びは、今も私の経営の原点として息づいています。今回ご紹介するダレン・クック氏も、その中のお一人です。

ダレン・クック氏
今回は、そのダレン・クック氏が、ご自身のLinkedinに投稿した、ライフサイエンス系スタートアップのためのビジネス・キャンバスについての記事を、許可をいただき和訳したものをご紹介します。
バイオや医療系のスタートアップ企業を立ち上げた、創業者のための記事です。
ダレン・クック氏は、スタートアップを作りたい科学者のためのブートキャンプである全米国立科学財団(NSF)のI-Corpsで指導を受け持っています。
ライフサイエンス系スタートアップは草創期の段階では、自分たちがイノベーションを起こそうという舞台の登場人物をしっかりと把握してその世界を動かしている力学の解明に取り組むべきです。
そうした活動の基点になるようなドキュメントとして「ビジネスモデル・キャンバス」を書くことが推奨されています。あるいはビジネスモデル・キャンバスの変形版の「リーン・キャンバス」もよく目にします。
しかし、草創期のライフサイエンス系スタートアップにとっては、これらのキャンバスのフォーマットは混乱を招きます。誰のどんな問題なのかを考える必要がありそうな関係者が多いので、とっ散らかってしまいがちなのです。
普通のスタートアップが数年で達成する道のりを、ライフサイエンス系の場合は何段にも分けて進んでいきます。したがって、草創期のライフサイエンス系スタートアップは、後の方の段で問題になることは傍に置いておいて、前の方の段階で先に把握すべきことに集中した方が賢明です。
立ち上げ初期の試行錯誤は何をクリアにするためのものなのか?
俯瞰するためのマップはどんなものなのか?
接触すべき人は誰なのか?何を把握しないといけないのか?
整理するためのフォーマットである「ライフサイエンス・ベンチャー・モデル・キャンバス」をぜひご活用ください。
当初は、アドダイス社内メンバーのために訳出したのですが、公開した方が日本のスタートアップ・エコシステムの発展のためになりそうだということに気付き、ダレン・クックさんに公開の許可をもらいました。私自身がスタートアップであることから、新しい世界に挑戦しようとする皆さんへこの知見を届けたい、という思いが背景です。
快諾してくださったダレン・クックさんに改めて感謝申し上げます。
ライフサイエンス分野で革新に挑む皆さんの航海に、この “新たな羅針盤” が力強い指針となることを願って。
1.自己紹介
私は、カリフォルニア大学バークレー校、UC Berkeley(※1)のライフサイエンス・アントレプレナーシップ・センターの責任者です。また同校のスタートアップ支援アクセラレータであるBerkeley SkyDeck(※2)では、バイオテック系スタートアップのために、一般のスタートアップとは別に、専門的な支援を行う「バイオ・ヘルス・トラック」の責任者を務めてきました。
また、私は同校のHaaSビジネススクール(※3)およびアメリカ国立科学財団(※4)で「市場ニーズ探索コース」を受け持ち、指導しています。
さらにここ数年、エンジェル投資家のグループであるLife Science Angelsで、医療機器とデジタル・ヘルスに関わる側面は、私が指導しています。
そんなこんなで私は、数千のアーリー・ステージのライフサイエンス系スタートアップのコーチングや評価や助言提供をしています。
市場ニーズ探索コースの授業では、アメリカ国立科学財団の起業家育成プログラムであるNSF I-Corpsや、UCBerkeleyの生徒向けに同校のHaaSビジネススクールが半年分の授業(セメスター)として提供しているLean Startupの講義で、そのスタートアップがどの業界に属するかに関わらず、長らく使われてきた9マス型の伝統的なビジネス・モデル・キャンバスを使ってきました。

伝統的な9マス型のビジネスモデル・キャンバス
※1 UC Berkeley:シリコンバレーのスタートアップ・エコシステムを支えてきた公立大学の雄。私立のスタンフォード大学と並んでシリコンバレーを支える人材を輩出してきた。
※2 Berkeley SkyDeck:UC Berkeleyの名門アクセラレータ。このスタートアップ支援プログラムは同校の出身者だけでなく世界中の革新的なスタートアップに開かれている。
※3 Haas:UC Berkeleyの名門ビジネススクール
※4 National Science Foundation:アメリカ国立科学財団。科学系の大学教育を受けた学生や教員の起業家教育プログラムであるI-Corpsもここが運用している。
2.バイオテック・スタートアップと伝統的ビジネス・モデル・キャンバス
こうしたカリキュラムに不案内な人にとって、9マス型の伝統的ビジネス・モデル・キャンパスは分かりやすいものでした。
チームは、潜在顧客のセグメントとその顧客セグメントに響きそうな価値提案について、まずは仮説(当て推量 ※5)を立てたら、「オフィスを飛び出して(get out of the building)」、それが合っているのか?外れているのか?検証にふさわしい人に話をぶつけてみます。
そこで新たな事実に直面したら仮説を修正し、この工程を繰り返します。最終的には100回以上におよぶインタビュー(※6)を、できるだけ短期間で実施します。
彼らはビジネスモデルの検証に、この科学的な手法を使うことになるわけですが、これは素晴らしく効果的です。
しかしながら、規制と保険償還が関わる市場であるバイオテックとメドテク(Medical technology)のスタートアップにとって、伝統的ビジネス・モデル・キャンバスは少し相性が悪いところもあります。
これらのスタートアップは、ほぼ常に複数の利害関係者がおり、それぞれに異なる価値軸で定量化される価値提案が必要であり、全ての利害関係者を満足させて初めて会社が成功できるのです。
しかも単なる満足ではなく、各利害関係者が現状のあり方から変革することに、熱狂的な「イエス」という反応を示すという必要があります。
そのことが、この業界を厄介にしています。これらスタートアップの進捗管理に、伝統的9マス型ビジネス・モデル・キャンバスを使ってうまくやる方法はありません。
さらに、ビジネス・モデル・キャンバスにある幾つかのマス、たとえば「カスタマー・リレーション」や「流通チャネル」や「売上」は、特にごく初期段階のバイオテックやメドテクのスタートアップにはあまり関係がないのです。
※5 当て推量、Hypothesis:仮説。括弧書きで、要するにGuessのことだと補足してあるが、Guessは情報が不十分な中で行う推測のことなので文中では「当て推量」という訳を当てた。
※6 100回以上インタビューを行うと科学的:帰無仮説検定はサンプルサイズが大きいほど有意になりやすい。
3.バイオテック、メドテクスタートアップによりフィットする「ライフサイエンス・ベンチャー・キャンバス」
私はUCバークレーで、1週間版のI-Corpsのワークショップで指導しています。そこで、規制と保険償還が関わるバイオテックとメドテクのスタートアップが、伝統的ビジネス・モデル・キャンバスで四苦八苦するのを見てきました。
そこで最近、私は彼らに伝統的キャンバスを放棄させ、その代わりとして仮説の構築と検証に新しいキャンバスを導入しました。それがライフサイエンス・ベンチャー・キャンバス(以降、LSVC)です。

ライフサイエンス・ベンチャー・キャンバス
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LSVCの導入で、バイオテックとメドテクのスタートアップにとっての仮説検証が様変わりしました。私はわくわくしながら、このキャンバスを皆さんに共有します。
【後編】に続きます。