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【後編】バイオテック・スタートアップが生き残るための10の質問  ~ライフサイエンス・ベンチャー・キャンバスの導入

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実際に、どのようにライフサイエンス・ベンチャー・キャンバスを活用するのか

前編では、UC Berkeleyの起業家育成プログラム「I-Corps」でも指導を行うダレン・クック氏の知見をもとに、ライフサイエンス・スタートアップにとってなぜ従来のビジネスモデル・キャンバスでは限界があるのか、そしてその課題に対応する新しい考え方として「ライフサイエンス・ベンチャー・キャンバス(LSVC)」についてご紹介しました。

では、実際にどのようにLSVCを使っていけばいいのか?

後編では、LSVCが提示する5つの領域…Patient(患者)、Provider(医療提供者)、Payor(支払者)、Partner(提携先)、Permitter(FDAなどの規制当局)それぞれに対して、スタートアップが考えるべき具体的な視点やアプローチ方法を、ご紹介していきます。

バイオテック、メディテックの世界でスタートアップを始めるということは、技術力だけでなく、「誰のどんな問題に向き合うのか」という構造理解と仮説検証の積み重ねが欠かせません。

LSVCはその複雑な構造を俯瞰し、初期の意思決定を整理するための「羅針盤」となるものです。

では以降、ダレン・クック氏の記事の和訳となります。後編をお楽しみください!

ダレン・クック氏

3.ライフサイエンス・ベンチャー・キャンバスの概要

前回の続き)様々な利害関係者を特定し、その次に行うのは、新たな情報の断片について推量(仮説)と検証を行うことです。

すなわち、
”Who is this person”
(この人は誰?:ビジネス・モデル・キャンバスの文脈にざくっと翻案すると「カスタマー・セグメント」にあたる)

に加えて、チームは
”how do they solve the problem now?”
(現状で問題をどう解決しているの?)

を考えます。

これを理解することは決定的に重要です。

なぜならすべてのスタートアップチームは、”status quo”(現状のまま)という競合にさらされているからです。

私が、授業でよく口にするフレーズがあります。

「スタートアップの最大の殺し屋は、簡単に言うと、顧客のこの言葉です。― 現状のままで十分間に合っていますから(The Status Quo is Good Enough)

The Status Quo is Good Enough

「今のままで間に合ってます」と言われたら…

ではもし顧客が「現状に満足していない」としたら?
その理由を理解するのはスタートアップの責任です。

私のI-Corpsの授業では、バイオテックやメドテクスタートアップのチームは、LSVCを伝統的9マス型ベンチャー・モデル・キャンバスと同じように使っています。彼らは、具体的で、定量化され、精度の高い仮説を各セルに作り始めるのです。

それから彼らは(たとえまだ提案した解決策をリリースしていなくても)、「オフィスを飛び出して(get out of the building)」利害関係者に話をぶつけ、どのセルが正しいか?誤っているのか?を探り当て、それから仮説を磨いていくのです。

目標は、以下を知ることです。

  1. 各利害関係者は誰か?
  2. 今日時点で各利害関係者は何をしているのか?
    (課題の解決のために現状で何をしているのか?)
  3. 明日から、何か今と違うことをすることに「イエス」と答える動機付けるものは何か?

もしスタートアップが、各利害関係者から熱狂的な「イエス」が返ってくる課題解決策(ソリューション)を提供することができれば、彼らは良いところに気づき始めており、良い線を行っているかもしれません。

2.ライフサイエンス・ベンチャー・キャンバス、各セルの説明

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LSVC型キャンバスの各列を見ていきましょう。

Patient 患者

私は普段チームに対して、LSVCを「患者」から始めることを推奨しています。最も仮説をたてやすく、(話を聞くための相手を)見つけやすく、インタビューしやすいからです。

これから違うことをやる動機が何なのか?、「患者」が最も理解しやすいことが多いんぼです。現在の治療のモダリティに満足しているのか?何らかもっと良いモノを渇望しているのか?などです。

違う治療を試してもらったり、使って欲しいと声を上げてもらうために(高い効能、小さな副作用、少ない費用など)どれだけの改善が必要とされるのか?それはカスタマー・ディスカバリのすばらしい準備運動になり、その理解は決定的に重要なことです。

Provider 医療提供者、医療を提供する人や機関

次は、Provider、医療提供者・医療を提供する人や機関…すなわち医師やクリニックまたは病院のことです。

このマスでは、私たちは特異性を探します。臨床医は誰なのか?、現時点で何を処方しているのか?、および、または、どのように治療しているのか?

それから決定的に重要なのは、幾らの支払を受けているのか?、何か違うことをやるならその人はさらに幾らお金が必要なのか?(あるいは、医療の仕組みとして幾ら節約する必要があるのか)です。

思い出してください。「現状維持」が全スタートアップの最大の競争相手であることを。それは、このマスの利害関係者についてとりわけ当てはまります。

ライフサイエンスのスタートアップが成功するためには、提供するソリューションによって医療提供者の金銭的な成功を可能にすることが必須なのです。

Payor 費用負担者、支払う人

バイオテックまたはメドテクのイノベーション市場を理解するうえで、最も一筋縄ではいかないのは「誰が支払をするのか」という点にあります。

このマスの目標は、政府機関または保険会社の誰が、どのように薬や医療機器やサービスの保険償還がされるかを決めているのか?、そして現状の保険償還の動機づけまたは正当化は何によるのか?、これらを理解することにあります。

さらに難しいのは、いまとは何か違う未来のものに対して、費用負担者に支払うことを動機づけるものは何なのか?を理解することです。

新しい治療に保険償還する承認を与えるにあたって、どんな定量的なメトリクスが彼らにとって必要なのか?を理解してください。

Partner 提携事業者

ほとんどのライフサイエンスのスタートアップは、最終的は市場を獲得しにいく時には、サードパーティーと協業が必須になります。

例えば昔からあるタイプのセラピューティクス系バイオテックのスタートアップであれば、創薬パイプラインとして、新たな治療法を必要とする製薬会社が提携事業者に該当します。

医療機器のスタートアップであれば、医療機器製造受託企業および(または)販売業者が、提携業者になります。

ここでの目標は、その医療上の課題が現在どのように治療されているか?、そしてなぜ提携業者が新しい治療法を切望しているのか?を理解することです。
我々はここでも、数値化を求められることになります。

潜在的な提携業者が、バイオテックのスタートアップと進んで提携したいとなる前に、チームは彼らが目指す財務指標が何なのか?理解する必要があります。

Permitter 規制当局

FDA(※1)を「Permitter(許可者)」と呼ぶ人はいないと思いますが、すべの利害関係者を「P」始まりにする関係で、そう表記しました。この規制当局に対しては、スタートアップはやらないといけないことをやるまでです。

どのような薬や機器やサービスが現時点で承認されており、新たな治療を承認するにあたっての規制機関の手続きや期待が何なのか?、などを理解してください。

要するに、スタートアップが提供するソリューションが販売を許可される前に、スタートアップが予期すべきregulatory pathway(※2)が何なのか?、関係機関に証明すべき定量指標として何が期待されているか?を知ることです。

※1 FDA:米国政府機関、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)。日本の厚生労働省にあたる。FDA内で新薬承認審査行うのがCDER(Center gor Drug Evalutation and Research)。米国での医薬品販売にはCDER(FDA)の承認が必要。
※2 regulatory pathway:創薬であれば開発進度に応じたフェーズなど、医療機器であればクラス分類など、規制の類型ごとに辿る道筋を指す医療規制(レギュラトリーサイエンス)用語。

医者と患者

4.まとめ

ライフサイエンス・ベンチャーキャンバスの10個の質問(10個のマス)に、幾つ答えられたでしょうか?

大切なのは、

    • 「推測」が入っていないこと
    • 各利害関係者が要求している金額・時間・成功率もしくは他の指標が丁度ぴったりで疑問の余地が無いこと

です。

チームの皆さんが、カスタマー・ディスカバリのプロジェクトにおいて、各利害関係者が「現在とは違う新たな何かをする前」に、彼らが検討しなければいけないことを理解できたなら…かつ、チームのテクノロジーが彼らの期待を満足させられると確信できたなら、私は心からの「おめでとう」を言いたいと思います。

さらに詳しく知りたい方は、実践的で体系化されたカリキュラムを行う1週間のワークショップ講座を開催しています。

私、ダレン・クックは、毎年3月と6月と9月と12月に、I-Corps @ LSECで教えています。バークレー出身のチームしか参加できないということはありません。興味のある方は、ご連絡ください。

さらに詳しい情報は、以下をご参照ください。よろしくお願いします!
Northwest Region NSF I-Corps Hub

ダレン・クック氏の記事は以上です。氏のご厚意により、ライフサイエンス・ベンチャーキャンバスのテンプレートをどなたでもダウンロードできる形でご提供いただきました。ご活用いただければと思います。

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ライフサイエンス・ベンチャー・キャンバス

このテンプレートは、Darren Cooke氏によってオリジナルで制作されたものを、株式会社アドダイスがご紹介しております。著作権はDarren Cooke氏に帰属します。
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