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アドダイスCEO・伊東大輔のブログ

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「壊さない」という選択——アダプティブ・リユースと、空調制御AI・SEE GAUGEの話

2607_CEOブログアダプティブ・リユース

みなさん、こんにちは!アドダイスCEOの伊東大輔です。厳しい暑さの日々、いかがお過ごしでしょうか。

JFMA提言書「3,000兆円不動産ストック その活用へ向けた提案2026」

先日、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)が発表した提言書「3,000兆円不動産ストック その活用へ向けた提案2026」を読ませていただきました。「スクラップ&ビルドから、アダプティブ・リユース(適応再利用)による徹底活用へ」という副題のとおり、日本の不動産ストックが抱える構造的な課題と、その先にある一つの答えを、あらためて考えさせられる内容でした。

日本の不動産ストック(土地・建物)は約3,000兆円、これは金融資産に次ぐ重要な国家資産だといいます。ところが、その中にはまだ使える建物が数多く含まれているというのです。

最新の調査によれば、建物の実際の寿命は木造専用住宅で約69年、RC造事務所で約65年と、年々延びています。一方で「法定耐用年数」は40〜50年。これは本来、所得税の償却年数を示すものであって、建物の物理的な寿命を意味するものではありません。

それにもかかわらず、「法定耐用年数を超えたから老朽化している」という解釈のもと、まだ使える建物が数多く取り壊されてきた、というのが提言書の指摘です。

この「壊して建て替える」には、大きな代償が伴います。建設資材の高騰と人手不足により、建て替え計画そのものが見直しを迫られるケースが多発していますし、解体・新築に伴う廃棄物やCO₂の排出量も膨大です。

早稲田大学の調査では、既存建物の改築(建て替え)は、リニューアルに比べて10〜12倍ものCO₂を発生させると示唆されているそうです。コストの面でも、炭素の面でも小さくない代償を伴う選択が、これまで当たり前のように繰り返されてきたということになります。

アダプティブ・リユースという考え方

こうした課題への答えとして提言書が掲げているのが、「アダプティブ・リユース(適応再利用)」です。既存建物の構造・躯体を活かしながら、内部のリニューアルや増減築によって、時代や地域のニーズに合わせた用途転換を行う——それがアダプティブ・リユースだと定義されています。

提言書では、その効果を3つの側面から整理しています。
1)建設費の削減と工期短縮という経済的なメリット
2)解体・新築に伴うエンボディドカーボンの削減という環境的なメリット
3)経年変化がもたらす「時間の堆積」を資産として捉え直し、その土地の歴史や文化を次世代へ継承するという文化的なメリット

紹介されていた事例も印象的でした。青森県庁舎の減築や、築60年を超える建物を再構築した美土代クリエイティブ特区、100年近い歴史をリノベーションでつないできた第一生命の本社ビルなど。

いずれも「壊して新しくする」のではなく、「今あるものに、新しい価値を重ねていく」というアプローチの成功例です。

「壊さない」は、建物の外側だけの話ではない

提言書を読みながら考えたのは、アダプティブ・リユースという発想は、建物の「用途」や「外観」だけに限った話ではないだろう、ということです。

建物には、外観や間取りだけでなく、「中身」があります。空調、電気、給排水といった設備であり、それを日々動かしている施設運用そのものです。そしてこの「中身」の部分にも、実は同じ構造の問題があります。

設備が古くなった、性能が今のニーズに合わなくなった、という理由だけで、まだ十分に機能している設備ごと入れ替えてしまう。あるいは、優れた運用を支えていた熟練スタッフの経験や勘が、その人の退職とともに失われてしまう。これもまた、「壊して、また一から作る」という発想の延長線上にあるように思います。

私たちアドダイスが「予兆制御®AI」という技術を通じて空調制御AI「SEE GAUGE」に取り組んできたのも、振り返ってみれば、まさにこの問いに対する一つの答えを探す作業でした。既存の空調設備、既存の中央監視システムはそのままに、そこにAIという知性だけを後付けする。大規模な改修も、設備の入れ替えも、施設の稼働停止も必要ありません。

私たちはこのアプローチを「AIレトロフィット」と呼んでいますが、言ってみれば、「今ある建物の中身を、壊さずに進化させる」という試みです。

「継承」という視点

もう一つ、提言書を読んで考えたのは、「継承」ということです。

施設管理の技術継承イメージ

建物を長く使い続けるということは、その建物に蓄積された知恵や工夫を、次の世代に引き継いでいくということでもあります。空調の現場で言えば、それはベテランの管理者が長年かけて培ってきた「経験と勘」です。天気、気温、時間帯、テナントの特性——膨大な変数を読みながら快適な環境を保つその技術は、決して簡単に言語化できるものではありません。しかし、担い手が高齢化し、後継者が育ちにくい今、この技術は放っておけば静かに失われていきます。

空調制御AI・SEE GAUGEが目指しているのは、こうした「その施設固有の運用知」を、AIが学習し、動かしながら継承していくことです。建物の躯体を壊さずに再利用するのと同じように、そこに宿ってきた運用の知恵もまた、壊さずに次につないでいきたい。そう考えると、SEE GAUGEという取り組みも、アダプティブ・リユースという大きな流れの中の、ごく小さな一部分なのだと思えてきます。

アダプティブ・リユースは、人の想いも受け継ぐことができる

ここで、私にとって非常に身近な例を思い浮かべました。アドダイスのラボから歩いて3分ほど、千代田区外神田の「アーツ千代田3331」です。

アーツ千代田3331(旧練成中学校舎)

千代田区立練成中学の旧校舎を利用した「アーツ千代田 3331」/ 2022年7月撮影 / 現在は工事中

もともとここは廃校となった千代田区立練成中学校で、2010年に学校らしさをあえて残しながらギャラリーやオフィス、カフェなどが入る複合文化施設としてリノベーションされ、地域の拠点として賑わってきました(上の写真が2022年ごろの同所です)。

この施設は実は今、大規模改修工事の真っ最中。千代田区の「新ちよだアートスクエア基本構想」のもと、新たな文化芸術施設へと生まれ変わるとのこと。

老朽化した電気・空調設備を刷新、バリアフリーなど安全基準を満たしたうえで、国内外のアーティストが滞在制作を行うアーティスト・イン・レジデンスや、障害のある方々の表現活動を支える取り組みなど新しい機能を備えて2027年度のリニューアルオープンを目指しているといいます。

前を通るたびに、廃校になった校舎が形を変えて街の中で生き続ける姿に、小さな感動を覚えます。旧校舎を完全に取り壊し、ピカピカの最新ビルが建つよりも、はるかに地域の人々に愛される場所となるでしょう。

そしてもしかしたら何十年か前の卒業生も、ここを訪れるかもしれません。懐かしい学び舎が再生し地域で生き続ける姿に、きっと胸打たれると思います。本来、建物というのはそこで長い歳月、在り続けるものであり、そこには様々な人の想いがあるはずです。

アダプティブ・リユースは、そういった人の想いも受け継ぐこともできるのです。

「今あるものを壊さずに、活かしながら、より高い価値を生み出す」——アダプティブ・リユースというのは、突き詰めればそういう考え方なのだと思います。私はこの提言に共感します。私たちアドダイスが取り組んでいることと、根っこの部分でつながっているように感じます。

「壊さない」を、選べる社会へ

コスト、資材不足、人手不足、Co2排出抑制…様々な視点から、「壊さない」という選択は、これからの本流になろうとしていると感じます。JFMAの提言が示しているのは、まさにその転換点なのだと思います。

私たちにできることは限られています。空調という、建物の一部の運用を、AIの力で賢くすることです。このように「今あるものを、壊さずに、活かしながら進化させる」という発想そのものに、これからも寄与していきたいと考えています。

JFMAの提言に関心を持たれた方は、ぜひJFMAのサイトで提言書を読んでいただければと思います。

JFMA「アダプティブ・リユース推進」提言書(外部サイト)

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